日本バラッド協会第3回会合(平成22年3月)講演要旨

随想  L.P.H.Koizumiと英国バラッド(へぼ先生最後の放言)

本論に入る前に論者のバラッド愛好の経歴を述べる。京都のBritish Councilで借りた一枚のLP、The Jupiter Record of English and Scottish Balladsに 触発されてバラッドに惹かれようになる。また曲節を中心とした入門書、平野敬一の『バラッドの世界』も好手引きとなった。キャンパス・カード1枚ごとに1 から305までのチャイルド番号をつけ、手当たり次第に求めた、トピック、フォウクウェイズなどの輸入レコードからチャイルド・バラッドを登録していっ た。こうして305篇中約50%強が収集できた。また原一郎の『バラッド研究序説』により、初めて日本でバラッドを紹介したのが小泉八雲と分かり、彼との 深い関わりを持つようになる。

つぎに本論に入り、小泉八雲の来日前、バラッド関連の素養についての若干の推論を述べ、来日後のものも加え、バラッドに触発されたと思われる作品を いくつか例示した。ついで東大で行った二つのバラッド講義について詳説した。まず、東大着任後すぐに行ったと思われる「英国バラッド」の講義では、バラッ ドの入門的知識を与えたあと、八雲は「酷き母」をロングフェローのPoems of Placesから引用して講読し、続けて印刷してあったスコットのバラッド詩、The Sun Shines Fair on Carlisle Wall を引いて古謡とバラッド詩を比較している。

二つ目の講義「英国バラッド秀歌」では、いくつかのバラッドを原詩を引いて解説している。Child Waters (#63), Tam Lin (#39), Thomas the Rhymer (#37), Clerk Sunders (#69),Glasgerion (#67) などで、八雲の選曲には彼の好み、妖精、魔法、幽霊、妖怪といった超自然的なものへの偏愛が見て取れると指摘した。

この二つ目の講義で、八雲はラドヤード・キプリングのバラッド詩「正直トマスの最後の歌」をかなり詳しく紹介している。論者はこのバラッドの中、修羅場に登場する矢が空気をつんざく音と怪談「耳なし芳一の話」で八雲が芳一の琵琶の音を描写するところを比較しておいた。

最後にやや蛇足の感をぬぐえないが、Thomas the Rhymerの古謡が絵画、音楽、小説の題材になったことを例示し、バラッドが多方面に深い影響を及ぼしていることを付け加えておいた。

最後に、皆さん先刻ご承知の初歩的な話に終始したことをお詫びしたいと思う。なおこのような話につけたハンドアウトを理解して、何らかの参考にしたいと思われたら遠慮なくお申し出ください。原稿そのものをメールで添付いたします。(平成22年4月1日記)