日本バラッド協会第10回(2018)会合のご報告 会長 中島久代
- 講演
「遅れてきた青年のバラッド ― 暗い時代の人々を歌う W・H・オーデン」 圓月勝博
<講演要旨より>
大江健三郎の『遅れてきた青年』(1962年)のエピグラフに名前が登場することでも知られるW・H・オーデン(1907-73年)のバラッドを取り上げて、この文学ジャンルが 20世紀文学において果たした役割について講演された。
オーデンの親友でもあったハンナ・アーレント(1906-75年)は、『暗い時代の人々』(1968年)の中で、オーデンをベルトルト・ブレヒト(1895-1956年)とともに「遅れてきた者」として規定し、バラッドのような過去のジャンルを自由自在に再生する能力の中に両者の共通点を見た。
18 世紀イギリスの文人ジョン・ゲイ(1685-1732年)のバラッド・オペラ『乞食オペラ』(1728)を翻案したブレヒトの代表作『三文オペラ』(1928)を私たちに思い出させてくれるアーレントの評言は、オーデンのバラッドに関する洞察も与えてくれている。
オーデンのバラッドを読みながら、時代に取り残されたかのように見える文学の現代性を探ることを目的とした講演内容であった。
- 研究発表
「説経節『山椒太夫』の広がりと変遷:声、舞台、活字、映像」 ウェルズ恵子
<研究発表要旨より>
説経節(民間仏教歌物語)の「山椒大夫」は、森鴎外の短編「安寿と厨子王」の原作として知られる。安寿が壮絶な苦難の末に神格化したことを、節つきの語りで説く本地物語である。14世紀が始まりといわれ、各地に儀礼/芸能化した異種がある。本発表では、唱導語り(説経節、瞽女歌、祭文)、人形浄瑠璃、歌舞伎、小説、児童書、映画と多様に展開してきた約700年間の伝統が大まかにたどられた後、〈語り歌の関心が神仏から人間へ移った〉ことと〈人間中心になると語りの声の数が増える〉という二つの変化、および〈物語は暴力への解決策を示そうとする〉という不変の一点が明らかにされた。関連した議論のテーマとして、西欧の口頭伝承を基礎とする物語展開との類似の指摘、本作が歌物語だったことが作品の命の長さと変化の幅の広さに影響していること、現在「山椒大夫」が人々の興味をひかない理由に、〈奇跡〉の要素をほぼ捨てた明治以降の物語展開があること、という3点も議論された。
- ライブ
「リコーダーでアプローチする伝承音楽」 いがりまさし
<ライブプログラム紹介より>
アイルランドやグレートブリテン島、あるいは北欧諸国や沖縄など、伝承音楽が今も息づいている地域のメロディーを中心に、リコーダーとその改良型であるリケーナ4種類を使って、以下の曲が演奏された。また、いがりさんご自身が製作された北海道の自然の美しい映像とこれらの旋律とのコラボも行われた。リケーナの懐かしい、暖かい響きといがりさんの親しみやすいトークで、ネイチャーフォークミュージックの一端を堪能した時間となった。
演奏曲目
1.Holgaraten / Swedish Traditional
2.歓喜の歌 / Ludwig van Beethoven
3.Down by the sally garden / Irish Traditional
4. Planxty Irwin / Turlough O'Carolan
5. かりそめの夏 / Jack M. Skyfield
6.君の翼 / いがりまさし
7. 風への祈り/ Jack M. Skyfield