Shall We Sing Bonnie Songs? - 木田直子連載エッセイ(6)

北の漁村アラプール

英国の田舎を旅するならB&Bがお薦め。B&Bとはベッド&ブレックファーストの省略で、朝食付きの民宿。アラプールのB&Bはスコットランドの中でも評価が高い。 
エジンバラから車で6時間、遙々アラプールにたどり着いた東洋人カップルを、B&Bのおばさんはにこやかに出迎えてくれた。日本人の宿泊客は私たちが初めてらしい。白を基調とした清潔な平家。内装はピンクのフリルいっぱいの少女趣味。私たちが宿泊した部屋には大きな窓があり、窓の外には広い前庭が広がっていた。その向こうには車道を挟んでなだらかな芝の生えた崖があり、崖の下には一面黄色い花が咲いていた。ゴースという棘のある低木だ。和名はハリエニシダ。花はココナツのような甘い匂いがする。ゴースの茂みの間に小川と丸太橋が見えた。川は湾へと注ぎ、湾は北の水平線へ続く。B&Bのおばさんは、 
「どこに旅行に行っても、ここより美しい景色はないと思うの」 
と笑った。部屋のベッドに寝転がると海の上の青い空だけが見え、時折カモメが横切る。羽ばたきもせずゆっくりと通り過ぎるカモメは、グライダーのオモチャみたい。 
アラプールの町は海と丘に囲まれている。道は全てアスファルトで鋪装されていた。広い歩道とさらに広い車道の間には背の高いドロの木が等間隔で植えられている。若葉が銀色に光って白い木蓮の花のようだ。家々の庭の芝生は刈り込まれ、ラッパ水仙がそこかしこに咲く。山桜も満開。港町なのに潮の香りがしないしベタつかない。穏やかな湾内は波の音もしない。そして、一向に日が暮れない。昼間のような日差しの中で、子どもたちは夜9時過ぎまで公園で遊んでいる。夜10時頃になってやっと空がピンクになったが、夕日はなかなか沈まず午前零時過ぎまで空は白々としていた。

ランゴスチン f
ランゴスチン


丸太橋を渡って向かいの丘を登っていくと、赤い屋根のレストランがある。アラプールに行ったら是非足を運んで欲しい。ランゴスチン(手長エビ)、牡蠣、ムール貝、サーモン、コッドやハドック(タラ)、キッパー(ニシンの塩漬け)など、冷たい北の海の漁港ならではの美味。そして嬉しい価格。ランゴスチンは塩茹、ムール貝はキロポット(ワイン蒸し)、そしてハドックはフィッシュ&チップスがお薦め。タラのフライ(油はラードを使う)に太いポテトフライを添えたフィッシュ&チップスには、塩と酢をかけて食べよう。タラはコッドとハドックの2種類あるが、ハドックの方がふわっと柔らかくてちょっと高級。大量のチップスは皮ごと揚げてあることが多い。フィッシュ&チップスなんて大したことないと思っているひとがいたら、一度、スコットランドの漁港で食べて欲しい。もちろん、地ビールと一緒に。

私が幸運だったのは、そんなハイランドの景色や匂いや味を実感する中で、スコティッシュソングを学ぶことができたことだ。アラプールでは、歌詞に歌われたハイランドを想像する必要はなかった。目の前にそのものが広がっていたのだから。 スコティッシュソングには、漁師の歌も沢山ある。ジャニスに教わった蟹漁を営む男の歌があるので、紹介する。現代の女性も共感できる面白い歌詞だが、長いので日本語は意訳にする。 
(メロディーはこちらを参考にhttp://www.youtube.com/watch?v=xMYBnbUQiYY

♪Partans in his Creel      By Ally Windwick 

Oh, I lay in bed ower lang this morning     
Heedless o my mither’s warning 
Turned and twisted all night long 
And never closed an ee 
While outside million stars were winkin’ 
Sleep – it widnae come for thinkin’ 
Thinkin’ o the loving words 
That Willy said tae me 
Oh, Willy’s tall and Willy’s bony 
Willy hasnae muckle money 
No that siller matters when I ken I lo’e him weel 
※ 
So I think I’d better tarry, bide a wee afore I marry 
No till Willy’s catching mair than partans in his creel

For me mither calls me young and silly 
Far too young tae marry Willy 
Seventeen come Christmas day 
Tae Willy’s twenty three 
And for a’ he’s ever saved or striven 
T’ widna gie the cat a living 
A’ the work that Willy’s done is running efter me 
Oh’ Willy’ slow and Willy’s lazy 
Willy taks things ower easy 
Faither says he’s nothing but a trowie ne’er-do- weel

※(repeat)

There’s a peady croft amang the heather 
Whaur he says we’ll bide thegither 
There he’ll mak a living 
Wi’ his boatie on the sea 
There’s a wee but house his faither biggit 
Stoutly perched and snugly riggit 
Waiting to be taken over 
By Willy and by me 
But Willy stands aboot and whistles 
Willy’s fields are fu’ o thistles 
Thistles never brought a body 
Ony milk or meal

※(repeat)

♪魚籠の中の蟹

朝寝のぼんやりした頭のなかに母のガミガミ声が聞こえた。夜通し眠れなかった。なぜかと言えば、ウィリーに言われた愛の言葉が頭を巡っていたから。ウィリーは背が高くてハンサムだけど、貧乏。でも貧乏だと知る前に恋に落ちてしまった。

※だから、私が思うに、彼の魚籠が蟹でいっぱいになるまでは、結婚は待った方が良い。

母は結婚するにはまだ早いと言う。クリスマスが来たら、私は17歳。ウィリーは23歳。ウィリーは私の後ばかり追いかけて、貯金も努力もしない。ウィリーはのろまで、馬鹿で、怠け者。父は、彼は何も出来ない駄目なひとだと言う。

※(繰り返し)

彼は砂利だらけの小作の土地と小舟を持っていると言う。そこにはウィリーのお父さんが建てた小さいけど丈夫な家があるから、二人で暮らそうと言う。でも、ウィリーはぼんやり立って口笛を吹いている。ウィリーの土地はアザミでいっぱいだ。アザミなんかじゃ、ミルクも食べ物も手に入らない。

※(繰り返し)