Shall We Sing Bonnie Songs? - 木田直子連載エッセイ(7)

Feis in Ullapool – 5 (アラプールでのワークショップ体験 – その5)

フェッシュ2日目。昨日泣きの入ったスコティッシュソングは諦めて、午前中だけダンスのクラスに参加することにした。私の大学の専攻は舞踊である。朝8時過ぎ、雲一つない青空の下(連日晴天なんてスコットランドではとても珍しい!)、私は早めに学校へ向かった。講堂でフランク・マコーネル(Frank McConnell)先生を見つけた。スコティッシュステップダンスの先生だ。

FrankAndSandra
Frank & Sandra

「今日からダンスのクラスを受けたいのです」 
と私が申し出ると、彼は少々驚いた顔をした。そして青い目をくりくりさせて説明してくれた。小柄で手足を頻繁に動かすフランクは小動物を彷彿とさせる。 
「スコティッシュステップダンスは昔スコットランドで踊られていたが、廃れてしまった。でも、幸運なことにカナダに移民したスコットランド人がこのダンスを保存していた。それを僕たちは、今、スコットランドで復興している」 
丁寧にゆっくりと話してくれたが、彼の言葉を理解するのは大変だった。彼はグラスゴー出身。スコットランド訛りでグラスゴー弁は最強と言っても過言ではない。十数年イングランドに住んでいた日本人が、グラスゴーの友人を訪ねた際、街の人たちの会話を聞いて、 
「グラスゴーには外国人が沢山住んでいるんですね」 
と言ったという話を聞いた。グラスゴー弁が英語には聞こえなかったということだ。 

午前8時半になって参加者が集まってきた。二十名余り。若者も白髪の男女もいる。みんな革靴に履きかえた。スコティッシュステップダンスはタップダンスの原型だとも考えられている。私はタップダンスをかじったことがあった。タップダンスシューズの靴底には金属のチップが付いている。 
「その靴にチップは付いていないの?」
と私が聞くと、 
「僕の靴はチープじゃないよ!チップは付いてないけどね」
とフランクはとぼけた顔をした。みんなは大笑いした。それがジョークとわかった私が遅れて笑うと、フランクは嬉しそうに繰り返した。 
「チープ(Cheap)じゃない。この靴高いんだ!」 
ともあれスコティッシュステップダンスはチップのついていない普通の革靴で踊るものらしい。私は革靴を用意していなかったので、履いていたスニーカーで参加した。 クラスは上級、中級、初心者。ここでも自己申告で分けられた。初心者は、若いお姉さんと、太ったおばさんと、おじいちゃんと、私の4人。まず基本ステップを、続いてコンビネーションを習った。基本は、ステップ(Step)、ホップ(Hop)、シャッフル(Shuffle)、タップ(Tap)でこれを組み合わせてコンビネーションを作る。フランクは言葉で示しながらコンビネーションを踏んだ。 
「掘った掘った」 
と私には聞こえた。これはHop Tap Hop Tap。難解だ。 
「ホッシャッフッ ホッタッシャッフッ」 
と聞こえたのは、Hop Shuffle Hop Tap Shuffleというコンビネーション。なにを言っているのかさっぱりわからない。自分の耳はあてにせず、フランクの足元をじっと見つめて真似することにした。

初心者のおじいちゃんにはお気に入りのコンビネーションがあった。フランクが他のコンビネーションを教えても、おじいちゃんは、 
「私はこれが好きなので、これで良いんだ」 
と笑顔でそれだけを踏み続ける。フランクは、 
「そうだね。それも良いコンビネーションだ」
と笑顔で対応。日本のダンス教室なら、 
「あのおじいさん、自分勝手なこと言って、場違いじゃない?」 
と周囲から非難されそう。または、先生の出した課題が上手くできないと老人自ら寂しく身を引きそうなところである。フェッシュではマイペースが当たり前なのだろうか?その自由な空気が、私には新鮮だった。

ティータイム、マグとビスケットを持って外に出ると、昨日スコティッシュソングで一緒だったエレノアが私を見つけてとんできた。 
「スコティッシュソングに直子が来なかったから心配したわ」 
「午前中はステップダンスのクラスに出ることにしたの。とても楽しい」
と私が答えると、エレノアは、 
「まあ!それは素敵ね」 
と喜んでくれた。なるほど、フェッシュでは楽しむことがなによりも優先されるらしい。 
「午後のコーラスで会いましょう」 とエレノアと別れた。

※スコッティシュステップダンスについては下記YouTube参照
http://www.youtube.com/watch?v=Mjc25qllNU8