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Home エッセイ 「エドワード」と二時間ドラマ

「エドワード」と二時間ドラマ

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午後93 事件が起きる。

午後920 片平なぎさと船越英一郎あたりが偶然事件に関わる。

午後940 主人公たちの推理があらぬ方向へ。

午後10 主人公たちのあらぬ推理により本田博太郎あたりが誤認逮捕され、主人公たちは有頂天に。

午後1020 主人公たちが真相に気づき始める。

午後1030 主人公たちが意外な真犯人を追い詰める。

午後1040 決定的(?)な証拠により真犯人が屈服。真相が明かされる。

詩の講義で伝承バラッドを読むと、学生の人気上位は「バーバラ・アレン」、「魔性の恋人」、そして「エドワード」である。ちなみに、テキストは『イギリス伝承バラッド』(英光社)。女子学生ばかりの講義であるため、特に「バーバラ・アレン」には彼女たちの感情移入が激しく、「女心ですよね~。でもダメですよね、一回の浮気(?)くらい許してやらなきゃ」だとか「今日からカレシに素直になります!」だとか、みな自身の経験を披露しつつ恋愛談義に花を咲かせる。「魔性の恋人」についても、「七年間、連絡もせずにいなくなった男が悪い」だとか「『王の娘と添えたのに』とか、恩着せがましい」だとか、みな本気で男を責める。初めは「詩を読むなんて・・・」と敬遠ぎみだった彼女たちも、実際にバラッドを読むと、詩を自分の感覚で読むことの楽しさにすぐに気づくようだ。男と女の物語に並々ならぬ興味を示す彼女たちを見るたびに、今も昔も人間とは変わらぬものだと伝承バラッドの普遍性を実感する。

ところで、今年度の前期の講義の中で異様な盛り上がりを見せたのは、いわゆる恋愛モノではなく「エドワード」であった。

「顔の血はどうしたの

エドワード エドワード

顔の血はどうしたの

さあ 本当のことを言ってごらん」

「それは ぼくの灰色の鷹の血だよ

母さん 母さん

立派な鷹を殺してしまった

もう二度と生き返らない」

母親の視線は「顔」から「手首」、そしてまさに殺人を犯したエドワードの「両手」へと移っていく。息子は「鷹の血だ」、「馬の血だ」と言い逃れをするが、「さあ 本当のことを言ってごらん」と母親に問いただされ、「父さんの血だ」と白状する。しかし真相はまだその奥にある。自殺を仄めかす息子に対して母親は遺言を要求する。「おまえの愛する母さんには何を残しておくれだい」と問われ、エドワードは言う。「地獄の呪いを母さんに/殺せと言ったのは 母さんだから」。

まず訳をすると、一部の学生が二度「えええええ~!」と声をあげる。『さては予習してこなかったな・・・。』言うまでもなく、一度目は「殺されたのは父親だ」という真相が明らかになったとき。二度目は「殺人が母親に指示であった」という真相が明らかになったとき。要するに「エドワード」は二段のオチを備えたサスペンス、二時間ドラマの構成にそっくりなのである。そこでわが担当クラスの女子学生たちは、にわか探偵に変身する。それはまるで、初めて出会った相方に、「アフガニスタンに行っておられましたね?」と問いかけ、その理由は「医者タイプで、しかも軍人ふうの紳士である。すると軍医にちがいない。しかし地黒ではない。顔は真っ黒だが、手首が白いからだ。熱帯地がえりなのだ。艱難を経て病気で悩んだことは、憔悴した顔が雄弁に物語っている。さらに左腕に負傷している。動かしかたがぎこちない。わが陸軍の軍医が艱難を経、負傷までした熱帯地はどこだろう?それはアフガニスタン以外にない」と、とんでもなく無謀な推理を展開した世界一有名な探偵、某氏のごとく。二時間ドラマで言うならば、船越英一郎の役どころ。

なぜ母親は息子に夫の殺人を依頼したのか。次にグループに分かれてディスカッション。一番前に座ったグループの話が聞こえてくる。

「デキとったとよ、エドワードとお母さん」

「えええ~!ありえんくない?」

『・・・近親相姦のテーマについては、初回の講義で説明したはず・・・聞いてなかったな・・・』

「やけん、邪魔になったったい、父親が」

「ああああ!やけん、『おまえの愛する母さん』とか言いよったい」

『おっ、いい指摘』

「ふつう自分で言わんよね~」

「きゃははははは」

隣のグループはこんな話をしている。

「分かった!父親と息子の嫁がデキとったっとよ!」

「えええええ~」

「『おまえの若くて美しい嫁』よ?『若く』て『美しい』っていらんやん」

「ああ」

「ひがみやろ?父親が息子の嫁に手ぇ出したけん、母親が怒って息子に殺させたとよ」

「分かった!やけん息子も嫁に『乞食でもさせる』って言いよっちゃん!」

「きゃははははは」

さらに推理は続く。

「しかも母親、息子に罪なすりつけるつもりやったとよ。『さあ 本当のことを言ってごらん』って、もろ自分は関係ないって言いようようなもんやん」

「しらばっくれるつもりやったったい」

「だんだん追い詰めようもんね。エドワードも自分が一人で殺したとか思い始めよっちゃない?」

「気ぃ弱そうやもんね、エドワード」

『そう?』

「ひどいよね~」

「でもこの母親、地獄の呪いとか関係なさそうやね」

「きゃはははは」

各自の感想をレポートにして回収、翌週いくつか読み上げる。お互いのレポートを聞いて、講義室は笑いの渦に。「エドワード」ってこんなに面白い話だったのだ。

二時間サスペンスも面白い。1981年に放送が始まった『火曜サスペンス』(2005年に終了)は一時期視率20%を超える怪物番組であったという。1977年に放送が開始された『土曜ワイド劇場』は『火サス』よりも残酷なシーンが多く、一昔前には犯人は幽霊だったというような型破り(掟破り?)のオチが面白かった。『火サス』には、「小京都ミステリー」シリーズや「浅見光彦ミステリー」シリーズ、「女検事・霞夕子」シリーズ、『土曜ワイド劇場』には「家政婦は見た!」シリーズや「牟田刑事官」シリーズ、「温泉若おかみの殺人推理」シリーズ、金曜の二時間ドラマ枠には「赤い霊柩車」というシリーズもある。シリーズものの人気は根強い。ストーリーは『水戸黄門』と同じくらい決まっている。『またか・・・』と思いながらも、見入ってしまうのも『水戸黄門』と同じ。二時間近く視聴者を釘付けにするために、番組には必ずどんでん返しが用意されている。これが凝縮されたのが、伝承バラッド「エドワード」だ。父親殺しを白状するのが、午後10時。殺しを依頼したのが母親だったのが判明するのが、午後1040分。ただし、伝承バラッドは事細かな謎解きはしてくれない。だからこそ、読み手は謎を解き明かそうと、まるで二時間ドラマの登場人物のように頭を捻る。「エドワード」を「楽しむ」彼女たちを見ながら、新しいバラッドの魅力に気づくのである。

 

 

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